会長 山本 真吾
東京女子大学現代教養学部教授
会長 山本 真吾
東京女子大学現代教養学部教授
この日本列島が中国大陸や朝鮮半島からもっと離れたところにあったとしたら、我々の祖先は、自分たちで日本語を記しとどめる文字を生み出していたであろうか。歴史に仮定を与えてみても意味はないかもしれないが、そう夢想してみたとき、漢字という文字を輸入することから日本語の書き言葉は始まったという歴史的事実を改めて顧みることにはそれなりの意義があろう。民族や国境のみならず、言語の異なりさえ越えて、漢字は使用域を拡げることに成功し、いわゆる漢字文化圏を形成する。その受け入れ方は言語によってさまざまであるが、中国語とは発音も文法も大きく異なる日本語の中にも、強靱な生命力をもった漢字は浸透してゆき、これをいかに馴化させるかが日本語の文字生活の課題であり続けた。日本固有の文字とされる平仮名や片仮名も漢字がなければ誕生しなかった。漢字という借り物の文字を、自分たちの日本語に馴染ませるためにさまざまなアレンジが施され、そういった営為が積み重ねられたが、その工夫の一つが平仮名や片仮名なのである。
本学会は、海彼から将来した、この漢字という希有な文字文化の意義をさまざまな面から解明することを目指す。その切り口はまだ出尽くしてはおらず、今なお多くの可能性を秘めている。斬新なアイデア、アプローチの仕方が生み出され、新たな漢字資料も発見されることであろう。そして、さらには専門分野や国の壁を越えて、学際的、国際的研究へと裾野を拡げることも可能であろう。
この若い学会が健全に育ってゆき、大きく発展することを願ってやまない。
2022年12月28日
初代会長 阿辻 哲次( 任期:2018年3月29日~2022年11月19日)