設立趣旨
日本漢字学会 設立趣意書
第二次世界大戦後、日本に進駐した連合国軍は、漢字を大量に使って日本語を書くことは近代化のさまたげになると考え、すみやかに漢字を廃止して、ローマ字で日本語を表記するよう提案した。それをうけた政府が制定した「当用漢字表」は、漢字制限を目的とし、最終的には漢字の全面的廃止を視野に入れるものであった。しかし戦後の混乱から立ち直り、急速に経済復興をとげるにつれて、社会全体において漢字の重要性が再認識され、「当用漢字表」の後継規格として作られた「常用漢字表」は漢字制限規格ではなく、漢字使用の目安として示された。
漢字の形と読み方と意味を覚え使いこなすためには、長年にわたる反復学習が必要である。それは表音文字の修得とは比較にならない労力を必要とするが、それにもかかわらず、日本人はついに漢字を放棄しなかった。いったいなぜなのだろうか。それは、いつの時代においても漢字が私たちの生活と文化に深く根ざしていたからにほかならない。
漢字は古くから記紀・万葉・仏典・漢詩などの表記に用いられ、また文明開化期では、多くの漢字語を創造して大量の文献を翻訳し、近代西洋文明を導入した。現代においては情報産業の発達により、もともと機械処理は不可能とされていた漢字がパソコンなどで簡単にデータ処理できるようになった。また学校教育の充実によって識字能力がほぼ100%に近い日本では、多くの人が漢字をきわめて身近なものと感じている。
このように歴史的にも現代的にも私たちの生活と密接不可分の関係にある漢字に真正面から向き合い、漢字が内包するすぐれた価値を明確にし、それを社会に反映させていくことの意義は、まことに大きいと考える。
研究の方向は、それぞれの漢字の形・音・義に関することはもちろん、漢字にかかわる文献研究や出版、書道やデザインなどの芸術活動、あるいは漢字教育や漢字政策、さらには漢字をめぐるIT技術など、きわめて多岐に及ぶべきである。
広範な分野における漢字の総合的な研究を通じて、わが国におけるよりよい漢字文化の発展に貢献するため、ここに「日本漢字学会」を設立しようとするものである。
発起人一同
研究対象
- (1)漢字そのもの(発生、変遷、音訓、字体、機能等)
- (2)漢字を用いた文化(表記、語彙、文献、書道、出版等)
- (3)漢字を処理する文化(活字、漢字タイプ、漢字変換、文字認識等)
- (4)漢字を管理・制御する文化(漢字教育、漢字政策等)
- (5)漢字を扱う国家や社会(漢字文化圏・比較文字学等)
発起人
*所属は発起人会開催時のもの。
阿辻 哲次 | 京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長 |
池田 証壽 | 北海道大学大学院文学研究科教授 |
乾 善彦 | 関西大学文学部教授 |
氏原基余司 | 江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授 |
円満字二郎 | 編集者 |
大形 徹 | 大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科教授 |
大槻 信 | 京都大学大学院文学研究科教授 |
大西 克也 | 東京大学大学院人文社会系研究科教授 |
小倉 紀蔵 | 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 |
小原 俊樹 | 福岡教育大学名誉教授 |
木田 章義 | 京都大学名誉教授 |
木津 祐子 | 京都大学大学院文学研究科教授 |
久保 裕之 | 立命館大学専任職員(白川静記念東洋文字文化研究所文化事業担当) |
髙坂 節三 | (公財)日本漢字能力検定協会代表理事 会長兼理事長 |
笹原 宏之 | 早稲田大学社会科学総合学術院教授 |
佐竹 秀雄 | 武庫川女子大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会現代語研究室室長 |
佐野 宏 | 京都大学大学院人間・環境学研究科准教授 |
清水 政明 | 大阪大学大学院言語文化研究科教授 |
高田 智和 | 国立国語研究所理論・構造研究系准教授 |
田中 郁也 | (公財)日本漢字能力検定協会漢字文化研究所研究員 |
棚橋 尚子 | 奈良教育大学教育学部教授 |
牧野 元紀 | (公財)東洋文庫主幹研究員 |
松江 崇 | 京都大学大学院人間・環境学研究科准教授 |
森 博達 | 京都産業大学外国語学部教授 |
森賀 一惠 | 富山大学人文学部教授 |
安岡 孝一 | 京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授 |
山崎 信夫 | (公財)日本漢字能力検定協会理事 |
山本 真吾 | 白百合女子大学国語国文学科教授 |
吉川 雅之 | 東京大学大学院総合文化研究科准教授 |